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東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)138号 判決

原告 株式会社三和

被告 特許庁長官

主文

特許庁が昭和三九年審判第一〇二一号事件について昭和三九年八月二五日にした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

主文同旨の判決を求める。

第二請求の原因

一  原告は、昭和三七年九月一五日、特許庁に対し、別紙記載のとおり「FRESH」のゴジツク体英文字をもつて成る商標について、指定商品を第一九類「台所用品(電気機械器具、手動利器および手動工具に属するものを除く。)、日用品(他の類に属するものを除く。)」として、登録出願(昭和三七年商標登録願第二九九四六号)したところ、昭和三九年一月一八日拒絶査定を受けたので、同年二月二二日これを不服として審判を請求し、昭和三九年審判第一〇二一号事件として審理された結果、同年八月二五日右審判の請求は成り立たない旨の審決がされ、同審決の謄本は、同年九月三日原告に送達された。

二  本件審決の理由の要旨は、つぎのとおりである。

本願商標は、英語の知識が普及向上している現在においては、広く世人によつて殊に食肉果実などの食料品につき、その「新鮮さ」を意味する英語として理解されることはもちろんであるが、英語「FRESH」の文字については、上記の意味に限られず、「真新しい」「新しく作られた」「新規の」などの意味をも有することは明らかである(昭和三九年株式会社研究社発行「ニユー・イングリツシユ・ジヤパニーズ・デイクシヨナリー」七〇三頁「fresh」の項)から、本願商標をその指定商品に使用するときは、識者をして単にその商品の品質を表現しているにすぎないと認識させるものであるというのが相当である。したがつて、本願商標は、指定商品について自他商品の識別標識としての機能を有せず、需要者に対し何人かの業務にかかる商品であることを認識させることができない商標と認められるから、商標法第三条第一項第六号に該当し、その登録を受けえないものであるというのである。

三  本件審決は、つぎの理由によつて違法であり取り消されるべきである。すなわち、FRESHの語に「新鮮な」という意味のほかに、審決指摘のとおり「真新しい」「新規の」等の意味があるとしても、後者の意味についての普及、使用度は、現在においてなおきわめて低く、本願商標をその指定商品に用いても、取引の実情よりして、十分自他商品識別力を有し、需要者が何人かの業務にかかる商品であることを認識することができる。しかも、本願商標から生ずる称呼「フレツシユ」が、その指定商品について取引者需要者の間で、たとえば「フレツシユなべ」「フレツシユ湯のみ」「フレツシユほうき」等と商品の品質を表示し普通名称としてひろく親まれて使用されている事実は、まつたくない。右のほか、被告が「FRESH」「フレツシユ」の語の意味用法等について主張するところは争う。したがつて、審決が、果実、食料品等の商品についてFRESHの語がその品質を表示する「新鮮な」という意味で用いられている場合とはその実を異にしているのに本願商標をもつてたやすくその指定商品について商標法第三条第一項第六号の規定に該当するものとしたのは、その判断を誤つたものである。

よつて、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

第三被告の答弁

一  「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求める。

二  請求原因第一、二項の事実は認めるが、同第三項の点は争う。

英語FRESHについては、「新鮮な」「真新しい」「新しく作られた」「新規の」のほか、(一)業者によつては、「フレツシユ」「FRESH」の文字を「生まれ変つた」「新しくなつた」の意味で、商品たとえばチユーインガムについて品質の向上をもたらしたことを表現しており、(二)また、生鮮食料品以外の商品たとえば毛糸について、商品から受けるセンスが「新鮮な」「生々とした」または「新しくなつた」などの意味で「FRESH」に通じる「フレツシユ」の文字を用いている。したがつて、「FRESH」の文字は、取引者需要者に対し、鮮度を身上とする魚介果実などの商品の場合に限つてその品質を表示するものとして理解させるにとどまらず、本願商標の指定商品についても同断であり、これらの商品については、原材料、形状および効能などの点において工夫がこらされ日日新規なものが生産市販されている実情に徴するときは、これらの商品がいわゆる「新規な」ものであることを認識させるに過ぎないというのが相当である。したがつて、本願商標が自他商品を識別する標識としての機能を果たしえないことは明らかであり、需要者をして何人かの業務にかかる商品であることを認識させることができないものといわざるをえない。本件審決に誤りはなく、原告の本訴請求は、失当として棄却されるべきである。

第四証拠〈省略〉

理由

一  特許庁における審査および審判手続の経緯、本願商標の構成および指定商品、本件審決の理由の要旨についての請求原因第一、二項の事実は、当事者間に争がない。そして、右争のない事実によれば、本願商標は、別紙記載のとおり、ローマン書体で「FRESH」の欧文字キヤピタルレターを一連に左横書きにして成り、第一九類「台所用品(電気機械器具、手動利器および手動工具に属するものを除く。)日用品(他の類に属するものを除く。)」(以下単に台所用品および日用品と略称する。)を指定商品とするものであること、本件審決は本願商標をもつて指定商品の品質を表示するにとどまり商標法第三条第一項第六号にいうところの需要者が何人かの業務にかかる商品であることを認識することができない商標に該当しその登録を受けえないものであるとしたことが明らかである。

二  そこで、台所用品および日用品を指定商品とする本願商標「FRESH」が審決のいうとおり指定商品の品質を表示するにとどまり右法条の規定に該当する商標かどうかについて考える。

もともと、「フレツシユ」(fresh)の語がわが国において鮮度を身上とする青果物生鮮食料品等について一般にその「新鮮な」こと、つまり、その品質を意味する語として理解されていることについては、当事者間に争がない。また、「フレツシユ」(fresh)の語が、「新鮮な」ないしは「清新な」感じを与えたり連想させたりする物、たとえば、飲料、菓子のあるものや、化粧料、衣料またその素材のあるものなどについて、その需要者に与えたり連想させたりする性状、効能等を表示する語として用いられることのあることも、成立について争のない乙第二、三号証の各二に徴するまでもなく、顕著なところである。

けれども、右のような感じを連想させるにとどまる場合(右乙第三号証の二には、毛糸について「フレツシユな色」との表現を用いている事例が示されているが、これもその色が連想させる感じを表現しているものと認められる。)には、ここにいわゆる商品の品質、効能等を表示するものということができないのは明らかである。しかも、前掲乙第二号証の二によれば、「生まれ変つた 新しくなつた………フレツシユ ハリスガム」「Fresh HARIS」との表現を用いている事例が認められるが、かえつて、これから、「フレツシユ」「Fresh」が「生れ変つた」「新しくなつた」という品質を表示するというよりは、むしろ、ガムについて「清新な」感じを連想させるための表示であることをうかがうことさえできる。まして、「FRESH」の語が、食料品や流行品などについてとは異なり、本願商標の指定商品である、一般に実用を旨とする台所用品、日用品のたぐいについてまで、被告の主張するように単に商品の「新規な」品質を表わす意味で需要者に用いられ認識されているとは認められない。

なお、商標が商品についてその品質、効能、形状等を表示する標章のみからなり、需要者においてその商品が何人かの業務にかかるものであるかを認識することができないためその商標登録を受けえられないとされる場合における、商品の品質、効能、形状等とは、需要者の社会観念上当該商品が一般に有する共通な品質、効能、形状等をいうものと解される。商品が当該商標を使用しようとする者の業務においてだけ独特の品質、効能、形状を有している場合とか、当該商品について需要者に認識されていなかつたような品質、効能、形状等に関する場合等においては、その商標が右商品の有する当該品質、効能、形状等を表示するものであつても、需要者においてその商品が何人かの業務にかかるものであるかを認識することができるからである。本願商標の指定商品である台所用品および日用品について、「FRESH」「フレツシユ」の語が少なくともこの意味において一般に有する共通な品質、効能、形状等を表示する語として需要者に認識されるにいたつていると認めるに足りる証拠はない。日常に用いられる「FRESH」「フレツシユ」の語が、台所用品および日用品について、需要者により、単純に「古い」に対する「新しい」とか「新規な」とかいう意味に用いられる語でないことは、顕著であるし、また、成立について争のない乙第一号証の一ないし三(本件審決引用の英和辞典)のfreshの項記載の語義がそのまますべて本願商標の指定商品についてその需要者に認識されているとしうるわけのものではなく、これがただちに右判断を左右しうるものでもない。

三  右のとおりである以上、本願商標をもつて指定商品の品質を表示し需要者が何人かの業務にかかる商品であることを認識できないものとし、その登録を受けえないとした本件審決は、判断を誤つた違法があるものとのそしりを免れないから、その取消を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用し、よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 原増司 荒木秀一 武居二郎)

(別紙) FRESH

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